第39回全日本医科学生オーケストラフェスティバル

*狂詩曲『スペイン』(E.シャブリエ)

 1841年にフランスで生まれたシャブリエは、幼少期から音楽の才能を現しながらも父親の意向により法律を学び内務省に就職しました。公務員生活の傍ら、作曲家や画家たちと交流を持ち作曲を続けていましたが、1880年ついに退職し、作曲家として念願のデビューを果たします。お役所仕事から解放され自由な時間を得た彼は、その2年後、妻とスペインへ旅行し特にセビリアでは毎晩ワインを片手にフラメンコを夢中になって見ました。しかしただ楽しむだけでなく、体験したことは楽譜に起こしてみたくなるのが作曲家の性のようで、彼は自由奔放で情熱的なスペインの民族音楽を多く取り入れながらも、フランス人の目線からアレンジを加えてオシャレに書き上げ、初演から大変な人気を博しました。この後影響を受けたフランス人作曲家たちがこぞってスペイン風の曲を書くことになり、かの有名なラヴェルの「ボレロ」もその一つです。
 ところでフラメンコはカンテ(歌)、バイレ(踊り)、ギターの三つの要素から成っており、声やギターのほかに、カスタネットや手拍子、ダンサーの靴の音が入り混じって複雑なリズムが生まれます。この曲は8分の3拍子で書かれている一方、2拍子に聞こえる箇所もあり、それがフラメンコの独特で絶妙なリズムを表現していますが、最後には何もかも入り混じり、お酒に酔った人たちが舞台に乱入、お祭り騒ぎになるものの最後の決めポーズは「Olé!」としっかり決める…まさに夏オケそのもの!これほどオープニングにぴったりな曲は他にありません。
 客席の皆様には、踊り手の動きや表情、ドレスの裾が翻る様子、熱狂する観客たち、そしてカラッと良く晴れたスペインの風景までも思い浮かべられるような、色彩感と情緒に溢れるエネルギッシュな演奏をお楽しみいただけますと幸いです。


(コンサートミストレス 東京女子医科大学5年 立木綾音)


*幻想序曲『ロメオとジュリエット』(P.チャイコフスキー)

幻想序曲『ロメオとジュリエット』は1869年チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky、1840-1893)が29歳の時に作曲され、シェイクスピアの戯曲「ロメオとジュリエット」の物語が音楽で表現されています。初演は翌年1870年ですが、その後2度改稿、1880年の第3稿が現在最も演奏される機会の多い名曲となっています。

1. 序奏~ロレンス修道僧~
 モンタギュー家の一人息子ロメオとキャピュレット家の一人娘ジュリエットは、フランシスコ会の修道僧ロレンスの元で秘かに結婚します。曲の冒頭は、クラリネットとファゴットのコラールで提示され、これがロレンスを表現しています。彼はかつてこの地で起こった若き2人の恋の悲劇を回想します。

2. 第1主題~モンタギュー家とキャピュレット家の対立~
 イタリアのヴェローナの町を二分して争う両家の激しい闘いのテーマが現れます。弦楽器と管楽器のダイナミックな演奏によって、剣の交わりによる戦闘が表現されています。

3. 第2主題~ロメオとジュリエットの愛~
 ここで、有名なジュリエットのバルコニーのシーンに変わります。
 「ああ、ロメオ、ロメオ、あなたはどうしてロメオなの」
ロメオとジュリエットの愛のテーマがヴィオラとイングリッシュホルンによって歌われ、次第に高潮していきます。2人の別れを惜しむようにハープが和音を奏でます。
 ふたたび争いの音楽が荒れ狂い、第1主題と第2主題が再現されます。その後、ロレンスのテーマがトランペットによって人々を諫めるように鳴り響き、二人の死が暗示されます。

4. 結尾部~二人の死~
 仮死状態のジュリエットを見たロメオは、彼女が死んだと思い違いをしてしまいます。激しい音楽からの鋭い一音はロメオが毒薬で命を絶ったことを表現しています。さらにティンパニによる鋭い一音は、それを見たジュリエットが後を追って短剣で命を絶ったことを表現しています。
 終結部では、心臓の音を表すティンパニに第2主題が悲しげに重なり、木管楽器が天に昇るような曲調で、最後の盛り上がりを迎えます。物語では両家が和解をし、互いに相手の子の像を建てたとされていますが、最後の和音の不規則な連続は、両家の戦いはこの後も続くことを暗示しているかのようにも思えます。

(コンサートマスター 岩手医科大学4年 田口裕基)


*組曲『惑星』(G.ホルスト)

 『惑星 The Planets』は作曲家グスターヴ・ホルストの作品の中でも最大規模を誇る管弦楽曲で、誰しもが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
 この曲は天文学ではなく占星術という、いわゆる「星占い」のようなものから着想を得たもので、組曲の副題についても占星術的なものが付されています。ホルストは作曲に取り掛かる1年前の1913年に、劇作家のクリフォード=バックスから占星術についての教えを受けていました。ホルストはそれ以来占星術に傾倒していくようになり、その結果生み出されたのが組曲『惑星』であると伝えられています。そのため地球は含まれていません。また、冥王星が含まれていないのは、1916年の作曲当時には未発見であったためです。1930年にアメリカの天文学者クライド・トンボーにより冥王星が発見されるとホルストは作曲に取り掛かったものの、未完成のまま1934年に死去してしまいました。

【火星-戦争をもたらすもの】
火星は「戦いの神マルス」に称えられていて、昔から「戦争をもたらす星」とも言われてきました。冒頭ではコルレーニョという、弦楽器の弓の背で弦を叩く奏法が用いられています。副題のとおり、非常に戦闘的な曲で、曲は徐々に発展してゆき、やがて壮大なオーケストラ編成による劇的な完結を迎えます。

【金星-平和をもたらすもの】
金星は美の女神ヴィーナスの星で、特に平和と美しさの象徴とされています。前曲の火星とは対照的に、穏やかで叙情的な曲です。弦楽器と木管楽器、ホルンによる幻想的なメロディや、星がきらめいているかのようなチェレスタによるアルペジオが平和をイメージさせます。

【水星-翼のある使者】
太陽に最も近い惑星である水星は昔から私たちに、天空の使者が空を翔けめぐるかのような印象を与えるとされてきました。流麗な曲で飛翔感に溢れ、ホルスト自身はこの曲を「心の象徴」と語っています。

【木星-快楽をもたらすもの】
木星は太陽系の惑星の中で最も大きく、多くの神話で最高神が司る星とされています。単独でも取り入られることも多い名曲で、「惑星」の中でも一番親しまれています。この組曲の中でも一番規模の大きな曲で、楽しげなメロディや民謡風のメロディなどが次々登場し祝典的な気分が満ち溢れる輝かしい音楽です。

【土星-老いをもたらすもの】
ホルスト自身が最も気に入っていたというこの楽章は、経験豊かな老男者の充実ぶりを表した、複雑な響きを持つ音楽になっています。しばらくして金管による行進曲風の主題が静かに出てきますが、これが次第に盛り上がり鐘の音でクライマックスを築いたあと、次第に遠ざかるように弱まっていきます。

【天王星-魔術師】
何かの呪文を表すような雰囲気のある最初の「G-Es-A-H」はホルストの名前(Gustav Holst)を音名化したものです。当時あまりなじみのなかった天王星には魔術師(マジシャン)のイメージが与えられ、他の惑星との差別化を試みようと、ポール=デュカスの交響詩『魔法使いの弟子』の要素を取り入れ自身の書法に織り交ぜています。

【海王星-神秘をもたらすもの】
海王星は「神秘の星」と言われ、太陽から最も遠い青い星です。宇宙の果てにかすかに見える星を表すように、弱音で神秘的に演奏します。太陽系の最果ての雰囲気が醸し出されており、最後は無限に続く太陽系外の宇宙空間に溶け込んでいくように、女声合唱がフェードアウトしていきます。

(コンサートミストレス 東京女子医科大学5年 山口華乃子)


プログラムの魅力についてはこちら[39thプログラムの魅力|中田延亮先生より]をご覧ください。